知の挑戦―科学的知性と文化的知性の統合


著者は究極の科学信奉者、物質主義者。すがすがしいほどの。脳科学と進化生物学が知の統合に大きな役割を果たすと言っている。間違いではないだろうが、芸術や文化が説明できるにはほど遠い。説明できたとしても、それは知識であって体験ではない。だからなんなんだ、と。それでモネの絵の美しさが感じ取れるのか、と。

メモ
・未知のことがらを熟考する哲学は、縮小傾向。それより学問領域の統合の試みがやりがいのある知的難問。Consilience統合
・大学生はみな、次の質問に答える能力を持つべき。科学と人文学の関係は何か。それは人間の幸福にとってどのように重要か。この問いは難しいなー
・ベーコン 洞窟のイドラ偶像は、個人の信条や情熱の性癖。広場のイドラは、存在しないものを信じさせる言葉の影響力。劇場のイドラは、哲学の考えや誤った論証を無批判に受け入れること。そんなイドラ偶像に気をつけろ!
・ベーコンは帰納的探求家 学問の全ての枝にうまく適応できそうな共通のものを探した。
 デカルトは演繹的探求家 各現象をいかに徹底的に切り、骨組みだけにするかを探した。デカルト座標がその一例。
・神秘のない儀式は、感情に訴える力を失う。理神論がつまづいたのもここ。わかるようになると魅力が無くなる。科学が神の存在を証明しても構わないが、神の力を測るのは誰も好まない。
ポストモダニズムの思考形式いろいろ アフリカ中心主義、構造主義社会人類学的科学、ディープ・エコロジ エコフェニズム、ラカン派の心理分析、脱構築ニューエイジ全体論
・科学が、知るための大きな武器なことは間違いない。が、今知っていることは全体のなかのどれくらいか。科学以外の知もなければ全体にはならないし。人間は自分の無知さを知り、もっと謙虚になるべきでは。
・科学を疑似科学と区別する特徴。
 1*再現性、検証可能性
 2*節約、要約して最小の形で最大を生み出そうとする
 3*測定法 普遍的な尺度を使う
 4*発見的解決法 5*統合 生き残るのは、互いの結びつけが可能
・還元主義を伴う複雑さに対する愛は、科学を生む。還元主義を伴っていなければ、芸術を生む。
ハーバート・サイモン 創造的思考をありふれた思考と区別する特徴3つ
 1*意欲 あいまいに定義された問題提示を受け入れ、徐々にそれを構成する意欲
 2*集中 相当な時間、持続的にその問題に没頭する集中
 3*関連する分野や潜在的に関係ある分野の幅広い知識
・重要な問い
 1*複雑系理論者が探求しているような、力づくのシミュレーションに頼らない組織化の原理は存在するのか
 2*それは行動や心や生態系に適用できるのか
 3*生物学にも物理学と連携できるような数学的な言語があるのか
 4*仮に原理があったとして、それを使うために事実情報はどれくらい詳細でなければならないか
・意識は雑多な知覚のなかで身体行動を選び、情動を満足させる。意識が作ったシナリオは、未来を推測し、行動の道筋を選択する手段である。
・意味は情動を引き込む興奮によってつくられ、意識が作り出す数々のシナリオの選択行為が意志決定と呼ばれる。情動が長続きすると気分と呼ばれる。もっとも効果的なシナリオ作りを創造力という。
・科学は感じを説明し、芸術は感じを伝える。デザインは感じを伝え。意味を説明するまで。
・人間の特性の研究対象 解剖学的特性 生理的特性 行動特性
・1994年世論調査 アメリカ人の23%が人類進化説を認めない、35%がわからないと回答。宗教色濃い。
・マーケティン・セリングマン心理学者 準備された学習
文化の因果は、遺伝子から脳や感覚を通って学習や行動へと遠回りしながら作られる。遺伝的に受け継がれるのはミームでも、文化の単位でもなく、ある決まった種類の記憶要素を、他の要素より好んで伝達する傾向だ。
・生物人類学者は、文化が人類の遺伝的歴史の産物だと主張。
文化人類学者は、文化は遺伝子に拘束されないより高次の現象と主張。生物人類学者の世界はスターウォーズの世界。文化人類学者の世界はボディ・スナッチャーの世界。
・人類学、社会学がもっと還元主義、構造主義的になれば、自然科学とくっついて統合がはかれる。
 境界線の架け橋4つ。1*脳科学 2*人間行動遺伝学 3*進化生物学または社会生物学 4*環境科学
・ハーバード・サイモン 満足化satisficing 短い間に認識された選択肢のなかから満足いくものを選ぶ。人間はどの時点で思考するのをやめて満足化行動、選択を起こすのか
ゲルダ・スメッツ デザインの要素の繰り返しが20%のときに脳反応が活性化する。20%の冗長性は生得的か。新生児も同程度の絵をよく見つめる。
・哲学や科学によっていまの人間の還元的思考がつよまったのなら、神話や芸術を強める学問が出てこないとも限らない。感性やビジュアル、空想を強める学問。