暗黙知の次元 (ちくま学芸文庫)

物理化学・社会科学者が、思考・知の暗黙領域を哲学的に模索する書。科学の倫理・科学では語られない・暗黙的知を解く。



メモ
・知っている と できる の差、対象を知っているKnowing What と方法を知っているknowing how の差にあるものが暗黙知である。
・全体を見ようとするが故に部分が見えなくなる。つまり顔を認識しようとすると、メガネや眉毛の形がぼやけて認識される。暗黙知が形成されるプロセス。
・人間は暗黙的認識から逃れられない。すべての知識を形式化しようとしても自滅するだけ。暗黙知を言葉や数学の意味に置き変えても、それを関係付ける行為自体が暗黙的統合なのである。
・問題が独創的である場合に限って、研究結果も独創的でありうる。
プラトン メノン もし何を求めているのかわかっているのなら、問題は存在しないのだし、逆に、何も求めていないのなら、何かを発見することなと発見できない。このパラドックスプラトン自身の答えは、すべての発見は過去の経験の想起である。
・原理を制御するヒエラルキー構造 言語の階層は、発声、語録、文、文法。生物の階層は、自律神経系、筋肉運動、行動パターン、知性。人工物の階層は、ネジ、ギア、駆動、力。
・生物の際立った特徴は、感覚を持っていること。非生物のように機械的ヒエラルキーでは説明できない。むしろ、非生物の諸原理に加えて生命体の原理を包括する未知の原理を探求したい。
・生物学は、観察者が対象生物が規則に合致することを期待して見る。そういうふうにして価値基準が濃密、強化される。そうすると、動物を動物と認識し、動物の行動に意味を認識し、動物の行動に感情を認識するようになる。つまり、人間の価値基準、感覚に基づいたものとなる。
・道徳的精神や宗教的精神は説明できないところゆえに、世代に暗黙知として伝わる。なぜなら、説明可能なものは検証、批判が可能ということであり、崩壊する。
・はじめのうちは無意味と思われる指導も、実は、指導者が内面化している暗黙知を感知できれば意味を持つ。それまで辛抱強く努力することが大切であり、そうさせる指導者の権威、信頼が大切。
・伝統主義とは、認識できるようにするために、先ずは信じることを説く。伝統主義は、知識の本質や伝達に対して、科学より深い。
・独創性は、あらゆる段階で、精神内の真実を増進させるという責任感でおこる。完全なる奉仕である。
・発見とは雲である。一歩前進するまえに、見える実在として無数の関連する手がかりとなる水滴、霧が見えてくる。そうしているうちに霧は確固たる雲として認識され実在した発見となる。見える雲は、ある方向へと移動、拡大、縮小してゆき、万人にも認識されゆく。しかし、雲は実在するが消えゆく。
・われわれは、いままで探求する人間、問題解決、理解−包括、決断、判断する社会を賞賛してきた。しかしみんな何処に行くつもりなのだろう?
・科学者の倫理
・「創発emergence」進化論の中の一理論。一般には、進化の途中で新しい形質や種類が出現すること。
 人工生命の理論では以下。自然界の構成要素が階層構造でできているとするならば、原子・分子・遺伝子・細胞・組織・生物個体・群・社会・文化・精神となるわけで。その中で、任意の2つ以上の階層を非線形でフィードバックさせるような働きを「創発」という。例えば、1匹のアリが出すフェロモンで、アリの行列・群を作り出し、下位の階層が上位の階層を創発する。