いちばん大事なこと―養老教授の環境論 (集英社新書)

解剖学者が環境を語った本。

・「ああなれば、こうなる」は、形式化された脳の思考のこと。つまりはシミュレーション人間。コンピュータができてからは、これをコンピュータにやらせるようになったが、そこから発見されたのがカオスである。
・経済は要するに、花見酒の経済で実体がないもの。八つぁんと熊さんが十文をやりとりして樽の中の酒を飲み、二人とも酔っ払う、という落語がある。経済もこれと同じ。十文のやりとりが虚で、酒と酔っ払うことが実である。酒の減少は資源の減少であり、酔っ払うことはヒトが生きること。虚の経済がいつまで続くか疑問。
・絶対だという話はあやしい。予測可能ではない世界は絶対ということはありえない。それを認め、結果を受け入れることを「人事を尽くして天命を待つ」という。そう考える強さが大事。宗教は絶対を信じるからおかしなことになる。
・「できることとできないことがあるのだから、仕方がない」と自然を受け入れることが大事。どうすることもできない自然を受け入れられない(例えば死とか)から都会人は自然を排除しようとする。
・弁解のための仕事は、なんのために、どのように進める必要があるかを考えず、自分で決めた範囲で仕事を済ませることになる。そうした動機で集められるデータが議論に値するはずがない。
・自然とつきあう思想は、老子荘子による老荘思想で、世間とつきあう思想が孔子孟子に代表される儒教
老子「大道すたれて仁義あり」。都会というところは、ああしちゃいけない、こうしろといわれる、頭で考える仁義だけの世界である。本来の大道を見失っているから、仁義に頼ることになる。
・生物の進化は遺伝子が自らを生き延びるために固体という乗り物を利用しているとR・ドーキンスは言っているが、もう一つ忘れていることがある。それは細胞というシステム。
細胞というシステムも一度も滅びたことがなく、必要不可欠。
・何かを生むということは、疑問をもつこと。「そういうものだ」と思っていては、疑問も生じなければ、何も学ばない。
・都会人は情報化社会に住む。情報はいったん情報化すれば、もはや変わらない。いくらでもコピーできる。これは情報処理であり、都会人の仕事は情報処理につきる。標本はコピーできない。自然のシステムは、情報とはまったく異なる実体である。その実体から情報を起こすことが、真の意味での情報化である。
・人生にはどうしたらいいかわからないことが山ほどある。それを認め「辛抱強く、努力を続ける根性」が必要。どうすればいいか、を考えることこそ人間、脳の出力である。自分で考える!