人間であること (岩波新書)


近頃流行りの脳科学者エッセイが好きな方は読む価値あり。そうとう昔に書かれたのに今読んでも考えるところあり。

memo
ヒポクラテス 人は脳によってのみ、喜びも悲しみも笑いも冗談も嘆きも苦しみも、しらなければならない。特に、我々は脳あるがゆえに、思考し、見聞きし、美醜を知り、善悪を判断し、快不快を覚えるのである。
・なぜ古い頭蓋骨を見ると、脳の成長がわかるのか。
 まずはサイズで。大きいほうが成長、知恵がある。
 頭蓋骨の裏面に凹凸があると、そこは成長途中。年輪みたいなもの?平滑な部分は成長が完了している箇所。現代人は前頭部と側頭部が凹凸。ジャワ原人は頭頂部に凹凸。
・神経という言葉の由来は、オランダ語のZenuw。杉田玄白が、神気の神と経脈の経をあわせて作った。
・脳の神経細胞は胎児のときに出来上がってから増えたり減ったりしない。脳が重くなるのは血流、グリア細胞が増えるから。神経細胞は長く伸びて絡み合う。これ、根っこは一緒ってこと。絡み合うこと、つながることが大切。
・0〜3歳までと4〜10歳までは神経細胞の発達場所が違う。3歳までは模倣の時期。10歳までは精神活動の時期。
・生の営み
 生きているーー植物的、反射、調節
 生きてゆくーー動物的
 たくましくー本能行動、情動行動
 うまくー適応行動
 よくー創造行動
・自律神経の名前はイギリスの生理学者ラングレーがつけた。
・味覚 甘さ、塩からさ は、食べものを探す手がかりとしての役割。苦さ、酸っぱさ は、有害なものを防御する役割。
大脳辺縁系による群がる本性 欲求
辺縁系の集団欲は、相手は誰であってもよい。しかし、新皮質で営まれる創造行為は、個を自覚し、個を主張する。人間である証を立てようとするほど他を排除し、孤独に陥る。そのとき求める相手は誰でもよいわけではなく、特定の相手。ケストラーの意見と一致する。
・肌の触れ合いは大切。タンジブルとの関係は?
・ネズミの実験と同じように人間にも脳への電気刺激によって快感不快感を起こす部位がある。ブレインマシーンインターフェイスの使われどころか、怖いな。
・情動行動は大脳辺縁系でドライにおこる。大人の情動行動は新皮質で修飾されるのでウェット。なので大人の情動行動は真の情動行動ではない。なんとなく、が真の情動。
・情操は、情動とは違う。情動は快、不快、怒り、恐れなど赤ん坊でも持っている。情操は喜び、悲しみ、ねたみ、うらみ、嫉妬、恥など、情操の心はウェット。
・記憶の座が側頭葉や海馬にあるけれど、それをどう理解、認識に結びつけているのか?フラッグとか公園の散歩に例えられるけど、意識に登ってくる仕組みはどうなってるの?
知能指数はハードウェアで営まれる理解や認識。
 しかし、知能を新しい環境や場面に対する適応能力と定義すると、意欲的、創造的な活動であってソフトウェアである前頭連合野が関与。良い頭はこのような知能を生み出す頭。
・見えども見えず、聞けども聞こえず の集中した状況は人間だけの芸当。
・なぜ人間は右利きが多いかは、まだ説明されていない。日本は5〜10%が左利き。
・学習 パブロフの条件付け、パブロフの犬
 スキナーの道具的条件付け、ネズミのレバー押し
・ネズミや猫は、環境のなかで上手く生きていく適応行動を学習する。サルは、意欲的に新しい行動を身に付けて、よく生きていく積極的学習。でもこの区別は、かなり主観では?ただネズミや猫はその必要がない環境なだけ。犬はよく生きていくためにお手を学習する。
・迷路学習テストで動物が行き詰まりにぶつかったとき、どっちに行くかは、デタラメ。人間は思考する。これが動物と人間の本質的な違い。
ゲーテ ファウスト 人間は、努力する限り、迷うものだ。
・文字をつづり、文章を書くことは、そこに高度な思考作用が働いている。書くことは、自分の思考を固着させるのではなく、いまの思考を確認して、ステップアップすること。
国連事務総長ダグ・ハマショールドの日記から
 理解するー心の静けさを通じて
 行動するー心の静けさから出発して
 かちとるー心の静けさのうちに

・対話する相手が他人ではなく、自分自身のとき、それは思考という精神活動になる。
・粋と隙 人間が人間に求めるもの
 粋は自分が自分に求める。他人より少し粋でありたいと。
 隙は他人に求める。隙があるほうがとっつきやすいと。
・人間は退屈する動物である。暇つぶしを必要とする。
・師を真似ることを求めず、師の求めたものを求める
 三寸下がって師の影を踏まず
・アラン 人は意欲し、創造することによってのみ幸福である。
・学ぶということは、むしろ苦しいこと。その苦しさを克服して喜びを体得させるところに、指導の真髄がある。
・歌のリズムで脳の前頭連合野が鎮静化する。おやすみの子守歌、コーラスやお経で理性が鎮静化し、耳や目に入るものを無選択に受け入れるようになる。
・新皮質は左右分化発達するので、新皮質で作られた笑顔は左右非対称。幼児の笑顔は大脳辺縁系で作られるので左右対称だ!
・目元には新皮質の精神が、口元には辺縁系の心が宿っているのかも。
・こどもは、時間と空間のどちらを先に会得するか。それは空間。ココ、アレ、コレが先。アシタ、キノウ、アトデは後に言葉として使えるようになる。
・2歳のこどもは順番の意味が理解できない。オモチャの取り合いで順番を教える。
・人間は非合理な存在。個を主張しながら集団を欲する。西田の自己矛盾と同じ。
・こどもの親として、自分はこのように育てたいという育児観。教師として、このように教育したいという教育観。社会人として、このように世に処していきたいという人生観。日本人として、このように振る舞いたいという世界観。自分の胸に持って実践に努めよ!