はじめての宗教学―『風の谷のナウシカ』を読み解く

ナウシカを材料に宗教学の基礎を学べる本。
五行説とは
古代世界では広い範囲で、地・水・火・風は宇宙を構成する根源的な要素、つまり「四大」とみなされていた。この場合、地・水・火・風は、地・水・火・風という物質を意味しているのではない。地は地のように固く動かない性質のもの、水は冷たく流動性をもつもの、火は熱く燃え上がる性質のもの、風は目には見えないけれど生命エネルギーをもつもの。
五行説は、木・火・土・金・水の五つの要素で、自然現象はもとより、政治や経済などの人事現象まで説明できるという思想。成立したのは、今から2500年前(中国の戦国時代)。
木・火・土・金・水というと、曜日や太陽系惑星を思い起こすかもしれない。日(太陽)と月を加えれば、曜日にも太陽系惑星にもなる。ということは、曜日も太陽系惑星の名前も五行説から取られているのだ。
木は、植物を指していると同時に、曲がるがまた真っ直ぐになる性質をもつものを指している。火は、火そのものを指していると同時に、燃えて上に上がる性質のものも指している。土は、土そのものを指してると同時に、種まきと取り入れも指している。水は、水そのものを指していると同時に、ものを潤して低い方へ流れる性質のものを指している。
・相克説(そうこくせつ)とは
五行説の順番は火・水・土・木・金としたもの。火は水によって克服され、水は土いによって克服され、土は木によって克服され、木は金によって克服され、金は火によって克服される・・・という発想。具体的には、火は水によって消されてしまう。水は土によって吸い込まれてしまう。土は植物によって根付かれてしまう。植物は金属に切られてしまう。金属は火に溶かされてしまう・・・。
・相生説(そうせいせつ)とは
相克説に対して、前者から後者が生成されるという発想。順番は木・火・土・金・水。木が火を生成し、火が土を生成し、土が金を生成し、金が水を生成し、水が木を生成し・・・。具体的には、植物が燃えれば火を生じ、火がおさまれば灰(=土)が残り、土からは金属が精錬され、金属が溶ければ液体(=水)が生じ、水があれば植物が生える・・・。
・陰陽とは
世界が陰と陽の気から構成されているという考え方。陰の気は、静かで、重くて、柔らかくて、冷たくて、暗いという性質をもつ。陽の気は、動き回って、軽くて、剛くて、熱くて、明るいという性質をもつ。この両者のどちらか一方が他方に対して、いつでも絶対的優位だとは考えず、両者の交合によって万物が生成され、両者の間の強弱関係によって変化があらわれる、と考える。「対極」あるいは「道」とよばれるものによって統合されていると考える。従って、互いに引き合い、補い合い、一方が増加すると、一方が減少し、一方の動きが極点に達すると、他方の一方に地位を譲る。このように陰と陽は永遠に交代と循環を繰り返す。
・陰陽五行説とは
前漢武帝の頃(2100年前)に陰陽と五行説が合体されたもの。中国人は陰陽五行説で自然現象から王朝交代まで全てを説明できる、さらに未来をも予知できると考えた。これが占いの理論的な根拠ともなった。
また、春・夏・秋・冬は、相生説に基づいて、木・火・土・金・水に割り当てられた。しかし、こうすると土があまってしまう。そこで、土は1年の真ん中の日として「土用」とされ、特別扱いを受けるようになった。日本では、「土用の丑の日」として、体力増強と称し、ウナギを食う習慣があるが、本来はこういうこと。
対極図とは
陰陽五行説では、宇宙の生成を対極図で語る。専門的には、宇宙の構造を語る思想をコスモロジー(cosmology)といい、宇宙の生成を語る思想をコスモロニー(cosmolony)という。
まず、宇宙の根源的な原理である「対極」が存在する。対極は、現代的な用語を用いれば「無」あるいは「ゼロ」といっていい。ただし、物質的には「なにもない」のだが、すでにそこにエネルギーは充満している。だから、チャンスや方向性が与えられれば、たちまち活動を開始する。大乗仏教の「空くう」とか、禅宗の「無む」もまた同じである。対極も空も無も、みな虚無ではない。
対極から陽と陰が生まれる。生まれた陰陽の気は、互いに交じり合って、五行を生む。最初に水と火が生まれ、土と金と木が生まれ、そろう。さらに五行は1つに集まり、対極と陰陽の作用と一緒になって万物を生み出す。こうした過程を一枚の絵にしたものが対極図。